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床に手を置いて、四つん這いで探します。
いとも簡単に蝶蝶は見つかりました。
蝶蝶は……、蝶蝶は死んでいました。
黒と黄色のまだら模様をそのままに。それは予感していたことでした。横たわっているのであろう蝶蝶の姿を、男の子は思い描きながら探していました。
だから、男の子が本当に驚いたのはそんなことではなかったのです。
蝶蝶はあと十センチメートルでベランダに着くというところで静かにその複眼を窓に向けていたのです。
蝶蝶は空の昆虫でした。短い、短い命は空を見て終わるべきものだったのです。たくさんの目が集まった複眼。空を映す青い複眼。鉄に覆われた缶の中で、蝶蝶はもがいていたのです。空を見たくて。
男の子の中で蝶蝶は宝物でしかありませんでした。このときまでは。
不意に涙がぽつぽつ浮かんでは紅色のほっぺをつたって落ちました。
蝶蝶を手の中に包みこみます。親指が鱗粉で黄色く染まりました。沈黙した男の子は校庭まで歩いていきました。
あかね色の夕焼けは、もう地平線の下でした。足下にはしおれた朝顔が落ちています。
まだら模様の気持ちが波のように男の子をおそいました。
静かに男の子は蝶蝶を、朝顔の葉の上に乗せました。葉は蝶蝶の重みでしなりました。
彼は暗い夜の道を家まで帰りました。
もう三年も経ちました。
時の流れで悲しみはとけてゆきました。薄く。薄く。
でも空を見られなかった蝶蝶は、今でもあの手の温かさを、忘れてはいないのです。